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長崎市畜犬取締条例(1957年~1968年)について・その2

その1からの続きです。全国初の「飼い犬」の放し飼い取締条例が施行された長崎市で、当時飼い主たちが「不安」に感じたことはなんだったのか、という話です。

 


 

まず、当時の長崎市の犬の飼育状況がどのようなものだったのか。次の記事からはその一端がうかがえます。

 

犬は必ずクサリに 畜犬條例きようから|放飼い一切できぬ 長崎市 全国初の試み

全国初の試みである長崎の畜犬取締条例は、いよいよきよう一日から実施され、〝飼い犬といえども〟放し飼いは禁止された。この畜犬条例制定を前に自治庁の見解をきくため上京していた長崎市浜浦環境衛生課長も三十日帰任、〝政府でも長崎市の新条例には疑義なしといつているほか、狂犬病予防法の中に放し飼いを規制する条項を加え、全国的に取締ろうという動きがある〟と語り、犬の放し飼いを思いきつて禁止した長崎市の新条例に全国の関心が集つて来ている

現在長崎市内には狂犬病予防法の規定をうけて登録した〝飼犬〟は約五千五百匹、登録されていない〝野犬〟は約五千匹、あわせて一万五百匹近くの犬が三十一万市民の中に横行している。つまり人口から割出せば六世帯に一匹の割で生活していることになる。

ところがこれらの犬は殆んど放し飼いにされ、ゴミ箱をあさつたり花畑、野菜畑を荒らし、はては道路、公園に脱ぷんして公衆衛生や市街の美化をけがす、また悪性の犬は人にかみつき、長崎市衛生部に届出でのあつた事件だけでも一カ月に被害は十件に達している。これらのうち野犬に対しては狂犬病予防法によつてどしどし捕獲しているが、登録の首輪をつけた飼い犬の被害も相当な数にのぼり、市民から取締りのよろんが高まつて来たため、全国に先がけて飼い犬も取締る畜犬取締条例を制定、実施したもの。(条例の内容は六面に掲載)

『長崎民友新聞』1957年5月1日5面

 

現在と比べてみましょう。2011年度の長崎市統計資料によると、市内の犬の登録数は19,834頭です。「野犬」についてはそもそも把握されていないはずですが、おそらく何百頭も野犬がいるという状況ではないと思われます。その1で述べたように市域が4倍近くに広がっているため、簡単に比較はできませんが、ざっと2万頭の犬が44万市民・20万世帯の長崎市で暮らしているわけですから、当時よりも犬そのものの密度は上がっていると考えてよさそうです。一方咬傷事故件数は2011年度の1年間で13件=1ヶ月に1件。当時に比べて激減していることがわかります。これらの数値だけ見ると、ずいぶん犬の飼育マナーは向上したようです。

 

それにしても、「飼い犬といえども放し飼いは禁止」「放し飼いを思いきって禁止」という表現自体に隔世の感がありますが、この記事のなかの「犬」を「ねこ」に置き換えて考えると、当時の状況が少し理解しやすくなると思います。

 

つまり「猫取締条例」ができて、「飼いねこといえども」外に出すことは禁止された。ねこの外飼い・内外飼いを思い切って禁止したこの新条例には全国の関心が集まっている。これまででも「ノラねこに対してはどしどし捕獲している」が、市民から「よその飼いねこがうちの庭で糞をしたり子ねこを産んで困る」と取り締まりを求める声が高まってきたので、全国に先がけて「猫取締条例」を制定・実施した――と、こう置き換えれば、この条例が制定された事情とその斬新さがわかるのではないでしょうか。

 

もちろん「ノラねこをどしどし捕獲する」という状況は、現在ではあり得ません。飼い主不明のノラを「捕獲・抑留」することができるのは「狂犬病予防法」に依っており、狂犬病予防法による抑留措置は、通常の場合(=狂犬病が発生していない状態の場合)「犬のみ」が対象となっているからです。つまり、ノラ犬は捕獲できる(捕獲しなければならない)けど、ノラねこは捕獲できない(捕獲する法的根拠がない)。法的根拠がないことはお役所は絶対にやりませんし、できませんから、「犬→ねこ」の置き換えはその点では無理があります。

とはいえ、ねこに迷惑し困っている「個人」であれば、「できるものなら、どしどし捕獲して処分するなりどこかに捨ててしまうなりしてしまいたい」と考える人は少なくないと思いますし、ごく例外かもしれませんがそれを実行に移してしまう個人も現実にいます(長崎市内で、そういった相談を実際に受けたことがあります……内外飼いしていた飼いねこを、ねこ嫌いが、他のノラねこと一緒くたにして捕まえて、どこかにやってしまったようだ、という話を聞いています)。

 

話がやや脱線しましたが、要するに、飼いねこであれノラねこであれ、「公衆衛生と市街美化」のために、外をうろついているねこは捕まえてしまえ、ねこの飼い主は自分の飼いねこが大事ならちゃんと家の中で飼え――そういう趣旨の条例が、当時の長崎市において制定施行された、ということになります(もちろん当時のターゲットは犬です)。

この結果、国の定めた法律=狂犬病予防法や(今であれば)動物の愛護及び管理に関する法律の内容よりも「踏み込んだ」規制を、条例によって行なうことになりました。日本国憲法第94条に規定されているように、条例は「法律の範囲内で」制定されなければならないため、この畜犬取締条例は憲法に違反しないのかどうかが当時も問題となります。このために長崎市の環境衛生課長はわざわざ自治庁(現在の総務省)まで出かけていって、条例の適法性についてお伺いを立て、問題なしとの回答を得て帰ってきたわけですね。

 

もし現在「猫取締条例」を本当に制定しようとしたら……おそらく動物愛護活動家をはじめとするいろんなところからクレームがついてすったもんだの末に、環境省あたりから指導が入るのではないかと推測されますが、1957年の「畜犬取締条例」も実はそれに近い状態でした。

「言ってることは間違いじゃないが、過激すぎないか?」「捕まえてしまえって、そのあとどうなるの?」と、少なからぬ人は疑問を感じるでしょう。当時もそうでした。もう少し『長崎民友新聞』の記事を追ってみましょう。

 

畜犬條例とはこんなもの|放し飼いはゴ法度 違反すれば罰せられる

いろいろ問題のあつた長崎市の畜犬条例はいよいよきよう一日から実施となつた。法律上難しいとの批判もあつたが、実施となつた畜犬条例とはどんなものか。また飼犬はこんごどんな注意が必要なのか。市当局では条例の内容をつぎのように発表し、一般飼主の協力を呼びかて【原文ママ】いる。

◆一部では不満の声も

【条例の内容】

対象となる犬は殆んどの犬で、番犬、盲導犬、りよう犬、愛がん犬などに至るまで、これらの飼い主に対してつぎの事項を守らせる。もしこれに違反した飼主に対しては拘留(一日から廿九日以内)または科料(二千円以内)によつて罰する。(1)自分の屋敷以外で放し飼いしないこと。(2)道路や公園そのほか公衆の集まる場所に犬を出す時は、必ず綱またはクサリなどをつけて連行すること。ただし飼主が監視しながら公園などの広場で運動させるときはこの限りでない。(3)公共の場をよごしたりゴミ箱をあらすなど、環境衛生や街の美化を害するようなことをさせないこと。

【問題点】

この条例が実施された日からは、一切犬の放し飼いは禁止されたわけだが、長崎市側の考え方としては飼主の知らないうちに屋敷外に犬が飛び出した時などには仕方がない。つまり常日頃放し飼いにしている飼い主を取締ろうというもの。

この条例に対する市民の反響は〝条例が出来てしまえばこれを守るようにしなければならない〟と半ば観念した形で、さる十三日から二十三日まで市内各所で行われた狂犬病予防注射と登録がえのさい、一緒について来た某金物屋のクサリやつなぎ革が飛ぶように売れ、万屋町藤野金物店では四月中に三十ダースも売れたとホクホク。

しかしやはり飼い主、とくに家庭の主婦には不満はある。今まで自由にさせていたものを急にクサリでつなぐことは、犬の自由を奪うようで、かわいそうだとして〝せめて一日一時間でも自由にさせられないものか〟と嘆く人も多い

比較的〝高価な犬〟を飼つている長崎猟友会が〝猟犬だけは赤い標識をつけるから大目にみてほしい〟とこのほど長崎市に申し入れているが、〝あまり過度に考えすぎている。何も飼犬を捕えて行こうというものではない〟と市ではいつている。

またこの条例に対して〝狂犬病予防法によつて野犬はどしどし捕獲していいことになつているが、野犬が今までに多いのは、市の野犬に対する取締りが手ぬるいからだ、野犬を一掃したのちに初めて飼い主を取締るべきである〟とみる者もある。

ところが、これらの論に対して市は〝野犬よりも飼い犬に悪性の犬が多い。これを悪性でなくならせるのは飼主の良識にたよるほかはない。みだりに放し飼いにしておれば、飼い犬も野犬と同じ様な性質になる〟といつており、こんどの条例も飼い主の良識をうながすことが最大のねらいのようである。

長崎市では四月中各地区ごとにスライドや映画で条例の説明会を開いて来たが、政府でも狂犬病予防法の中にこれを加えようとする動きがあり、これが実現されれば長崎市の条例は自然廃止となる。

『長崎民友新聞』1957年5月1日6面

 

「『飼い犬はつないで飼え』って、そりゃそうだろうけど、今まで自由だったのにそれを奪われて犬はかわいそうじゃないか」「でも、決まっちゃったものはいまさらどうにもならないから、クサリを買ってこなくっちゃ」――それが大方の飼い主の反応であったことが推測されます。また、「一日一時間でも自由にさせられないものか」というのは、切実ですが、それを裏返してみると、当時犬の散歩は決して一般的ではなかった、ということもわかります。

 

「犬→ねこ」に置き換えてみましょう。「『飼いねこは室内で飼え』って、そりゃそうだろうけど、今まで自由に家の中と外を出入りしていたのにそれを奪われてねこはかわいそうじゃないか」「でも、決まっちゃったものはいまさらどうにもならないから、脱走防止柵と網戸ストッパーを100均で揃えてこなくっちゃ」ってことですね。

もし飼いねこを外に出しているところを押さえられたら「最大29日刑務所にぶちこみますよ、さもなくば最大4万円(1957年の貨幣価値は現在の約20分の1)の罰金ね」と言われれば、今の人でも「外には出すまい(出せない)」と思いますし、当時もやはりそうでした。

 

そして「外にいるねこは、飼いねこでもノラねこでも、捕まえちゃうからね(あとはどうなるかわかるよね)」となれば、飼い主は戦々恐々でしょうし、当時もやはりそうだったわけです。またまた『長崎民友新聞』から記事を紹介します。

 

K-r28367-001

畜犬條例で強硬手段|飼犬も放せば捕獲 長崎 夜間は写真で証拠固め

全国初の試み――長崎市の畜犬取締条例は一日から実施され、市内の放し飼いの犬も大半姿を消しているが、中にはこの条例を無視した飼主も多いので、田川長崎市長は六日開かれた部課長会の席上、この条例が指導ていどに終ることなく放し飼いの犬はどしどし捕獲するよう指示した。このため長崎市衛生部では飼い犬であつても放し飼いの犬は野良犬とみなして捕獲、飼主をせん索して警告を与えるなど条例に基づく強硬手段をとることになつた。

長崎市畜犬取締条例は実施されて一週間を経過したが、この条例が効めを表わし、このところ市内には放し飼いの犬は大半姿を消した。ところが、中には放しがいをさせている飼主も多く、ことに夜間には昼間のけい留を自由にさせるために放し飼いさせているという声が多い

このため長崎市では今までこの条例を〝放し飼いを出来るだけ少くさせるために指導する〟ていどの方針でのぞんで来たが、田川市長の指示によつて、今後はたとえ鑑札をつけた飼い犬であつても野良犬と同様にどしどし捕獲すると共に、その犬の飼主を〝せん索〟して注意を与えることになつたもの。

しかし飼主の拘留や科料などの罰則は原則として実施しない方針でこのうち数回の注意をうけても放し飼いする〝悪質者〟に対しては適用するといつている。

また夜間の放し飼いによつてゴミ箱を荒らす飼い犬はかえつて多くなつている動きにあるため、夜間も監視員を巡回させ、現場を写真撮影して飼主に迫まる方針。一方長崎市環境衛生課では〝正しい犬の飼い方〟を広く市民に知らせるため、民間人の協力で現在〝犬の映画〟を作製中で、このほか飼い主にパンフレツトを配布したり、市役所の職員を指導員として指導員章をもたせ指導に当らせる。

一方野犬については最近処分方を依頼してくる野犬がメツキリ多くなつているので、五日からさらに強化、地区事務所ごとに野犬狩り用のオリをおいて野犬探しに躍起となつている。

『長崎民友新聞』1957年5月7日

 

……けっこう恐ろしい方向に事態が進んだことがわかります。「昼間はつないでかわいそうだから、夜は放しちゃおう」という飼い主が多く出てきたこと。それによってゴミ箱荒らしは返って増えたこと。それに対抗して、写真撮影で動かぬ証拠を押さえてまで「ダメ飼い主」を特定しようとしたこと。飼い主の「温情」で夜に放してもらった犬たちは、野犬同様に捕獲されたこと。それらの捕獲された飼い犬は、鑑札を付けていない限り、野犬同様に処分されたであろうこと(そしておそらく今以上に鑑札は付けていなかったはず)。

 

田川市長が犬嫌いだったのかどうかは定かではありませんが、「モラルの低い飼い主のツケを、飼い犬がその命と引き替えに払わされる」という事態があちこちで生じたものと考えざるを得ません。結果的に、その強硬策に折れるかたちで、飼い犬の繋留(&朝・夕方の散歩)は徐々に広がり、現在の状況に至ったのかもしれません。

※ちなみにこの田川市長(田川努)は、浦上天主堂の原爆遺構撤去を決定(1958年)した人物でもありますね。

 

犬をねこに置き換えるとどうなるか。長くなるのでここでは省きますが、上で「ごく例外として、飼いねこもノラねこもかまわず捕獲してしまう個人」として出した例を、市町の号令一下市役所ぐるみでやるわけですから、半端なことでは済まないと思います。おそらく現在では無理でしょう。1957年という時代だからできた話です。

 


 

というわけで、当時の犬の飼い主たちが感じた不安とは、(1)「自分が処罰されるかも」という不安、(2)「飼い犬が捕まって殺されるかも」という不安、(3)「一日中つないでしまって自分の犬は大丈夫だろうか」という不安、の3つだったと考えられます。

「市街美化・公衆衛生」は確かに大事かもしれないけれど、それと引き替えに自分や飼い犬がそんな目に遭うのはたまらない。そのことは、条例の審議段階からある程度明らかになっていました。次回(その3)では、この条例の審議の様子について、また新聞記事を見ていきたいと思います。

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